chaakoはロシア風パン屋「パルナス」でバイトをそつなくこなしていた。
これが仮の姿であるとは誰も知らない。
「ママー!これ字が間違っているよ!」
沢村さんの娘てまりちゃんが言った。
パンの名前が間違っていた。
「あらまあ!ほんとだね。ちゃあこさん書き間違えたのね」
『マロンパン』の表示が
『アロンパソ』になっている。
確かに『ア』と『マ』
『ン』と『ソ』はとても似ている
やさしい沢村さんは書き直していた。
「ママ、これも間違えてるよ」
『ミックスナッツパン』のミの傾く方法が違っていた。『ミ』は右下がりが正解であるが左下がりになっていた。
これもカタカナの中でかなり難易度が高い
そんな初歩的なミスをしたとは露知らずchakoは厨房でオーブンの掃除をしていたchaakoはCIAのカタカナ強化コースが定員オーバーで入れなかったため苦手なのだ。

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「ちゃあこさん、三色パンが28個焼いたからケースに入れといてくれる?ケースは四つしかないから均等にね」
店長からそう言われて困惑した
「28個のパンを四つのケースに・・」
そこへてまりちゃんが来て
「ちゃあこさんったら算数も苦手なんだね。28を4で割ればいいじゃないの」
「てまりちゃんは賢いなぁ。俺なんか八の段いまだに言えないよ」
店長がほめた。
大人になっても九九を完璧に言えない人はかなりの数に上るらしい
chaakoは七の段が苦手である。たとえひっくり返って4から始まっても7が付いているから結局できない。
七の段や八の段を苦手とする人は多い
覚えにくいからである。それはなぜか。
リズムが悪いから
なぜリズムが悪いか
二文字で始まっているから
その上、七も八も有気音で始まるから発音もしにくい。
その点、二の段が苦手と言う人はいない。
二の段は数字がすべて二倍になるというイメージが浮かぶ。
そして「に」と言う一文字で始まっている。
「ににんがし」(2×2)などは心に染み入るリズムである。
そして五の段も同様
「ゴ」という一文字で始まっている。
十の半分である五という数字そのものが親近感を抱かせる。
五の段の数字は生活と密着している
どん兵衛にお湯を注いで待つ時間は『5分』
休み時間は『10分休憩』
みんな大好きドッチボールもできる『20分休み』
時間の単位はほぼ五の段であらわす。
人々の営みに欠かせない五の段なのだ

そして九九が苦手なのは学習雑誌のおまけの表を、彼の母親が壁に裏返しに貼っていたから。
裏返すと世界地図と国旗が描かれていた。
だからこそ、九九は覚えられなくとも、世界を舞台に働く猫になったのである。
連載小説ミッションインポジティブ 第2話「パルナスで大活躍」
連載小説ミッションインポジティブ 第4話 「パンの耳のつぶやき」

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