誠実な人と聞いて、誰を思い浮かべますか?
身近に誠実な人がいるのは幸せなことです。
なぜ誠実な人にひかれるのでしょうか?
そんなことが気になるようになったのは、
千円カットで働いていたときに起きていたことがきっかけでした。
一生懸命にカットするスタッフ
千円カットの店で働くスタッフは様々な背景を持っています。
ある日中途入社してきた、40代後半か50代前半の男性は事情があって長年勤めてきた会社を辞める事になりました。
そこで昔取った理容師免許を武器に長い年月のブランクを経て、再び理容の世界へと飛び込んだのです。
昔取った杵柄とはいえ、一人前になる前に辞めてしまったため技術面ではほぼ素人です。
一人前になってからのブランクでも大変なのに、助手のレベルでやめてしまったならブランクと言うより初心者です。
大きな体をいつも申し訳なさそうに丸めていました。
人の髪の毛をカットするというのは、とても勇気がいることです。
自分の作品で一ヶ月近く過ごしてもらわなければいけません。
頭は目立つ部分です。
その上、頭は立体的であり一人一人形が違います。
それをまっすぐなくしとハサミで切るというのは、植木を丸く刈るよりも難しいのです。
そうであっても千円カットに入社したからには、お客さんを担当しないと給料がありません。
歩合制だからです。
彼の心臓のドキドキ音とハラハラ音が、隣で働く私にまで聞こえてきそうでした。
「自分なんかが切ってごめんなさい」と言わんばかりのオーラです。
時間も10分ではとても終わりません。
それでも彼は必死に、一生懸命全身全力、全細胞が結集してカットをするという大プロジェクトに挑んでいます。
そうです。毎回が大プロジェクト、大スペクタルだったのです。
冷や汗をかきながら。
必死のあまり、鏡を見てシルエットを確認する余裕がありません。
こんないかにも必死な人に切ってもらったならお客さんはどんな反応をすると思いますか?
試行錯誤しながら切られて不安になるでしょうか?
なんと
彼が担当したほぼ全員のお客さんが、ありがとうと言うのです。
言わない人もいますが、なんとなく雰囲気でありがとうを伝えています。
仕上がりはともあれ、彼に切ってもらった人はみな笑顔で帰っていきます。
ほんとに不思議でした。
これだけなら、へえーで終わっていたのですが、対照的なスタッフがいたのです。
目をつぶってもカットできるスタッフ
もう一人一緒に働いていたのは、もともと自分のサロンを経営していた男性です。
不景気の影響で店を閉店せざるを得なくなりました。
実際、格安カット店などの進出に伴い多くの理美容店が影響を受けています。
自分で経営していたのですから、大ベテラン。先生と呼ばれるレベルです。
年齢からするとこの道35年。
なので技術は高い。カット料金が4000円でも集客できた腕です。
当然ながら余裕しゃくしゃくです。
客とトークまでしながら、その手は無駄なく動いていきます。
彼なら目ぇつぶっても切れるでしょう。
理容師としての動きが体に染みついているからです。
ものの数分で完璧なヘアスタイルに仕上げます。非の打ち所がありません。
高い技術でカットされたならさぞ得した気分になるはずです。
ところが、
なぜか彼がカットをしたお客さんの大半はカットが終わるとそそくさとかえっていきます。
お礼を言う人など見たことはありません。
なぜでしょうか?
もちろん客に対して失礼なことは言っていません。
実力の半分も出していないことが、客に伝わるのか?
もしかして心の中で客のことをバカにしていた?
千円カットで働くことが屈辱だった?
原因をずっと考えていました。
確かにちょっと口がうまいところがある。調子がいい。
スネ夫的なキャラクターである。
人が求めること
この真逆の二人を見て、どんなことを人が好ましく思うかがわかります。
カット店に来る目的は髪の毛を短くする、整えるという目的です。
それでも、たとえわずか10分の間に自分に対して誠実に真心を込めてくれたことを感動するのです。
ひたむきに一生懸命切ってくれたというイメージが残り、仕上がりは気にならないのかもしれません。
彼は自分が人に与えていた、こんなすばらしいことに気が付いていなかったはずです。
あれから何年も経ってから、そのことに気が付きました。
だから伝える術がないのは残念です。
総理府青少年問題対策本部が実に興味深いアンケートを行いました。
日本、アメリカやスイスなど世界10か国の若者に人生から得たいものは何か?という質問をしました。
どの国も半数以上の答えを占めたのは
自分と他の人との間の愛と誠実さというものでした。
人が得たい最大のモノの一つが誠実さだったのです。
誠実な人にひかれるのは、人の自然な願いであり必要とすること、
そういう人と一緒にいたいと思うから
だったのです。
どう思いますか?
千円カットのお話はこちらで、「千円カット上手い?元従業員が語るお店の裏側」
〈広告〉