インドに来て、縁があってろう者の方々と深くかかわるようになりました。
これまで聴覚障碍者や手話といったことにほとんど無縁でした。
音のない世界で生き、目で見る言語を話す彼らの世界は想像していたものと全く違っていました。
それはこれまで味わったことのない驚きの連続でした。
これまで三次元で生きてきた私が突然、四次元か五次元に飛び込んだかの様です。
そして、そこでは素敵なことをたくさん見ることができました。
ろう者は助けを必要とする人達だと思っていた

これまでろう者は健聴者の助けを必要とする人達だと思っていました。
聞えないというハンディがある分、聞こえる人にサポートしてもらわないと生活できないのだろうと。
だから私も全力で自分にできることでサポートしないといけない。それが健聴者の彼らに対する使命だと思っていました。
ちがいました。
そうではなかった。全然。
助けたこともない。
私が普段接するろう者たちはとてもたくましく、ほとんどのことを自分たちで行っています。
仕事をして、結婚し子育てをして幸せに暮らしています。見たところ何も困っていません。
言葉が話せなくてどうやってコミュニケーションを取るのだろうと不思議でした。
ある日のこと私が近所のお店でデッキブラシを選んでいました。バスルームの床を磨くためです。
そこへ偶然にも友人であるろう者の男性が通りがかりました。私の様子を見て、すぐさま駆け寄り
「ちょっと俺に見せてみ」と言わんばかりにデッキブラシを取り点検を始めました。
ブラシ部分の硬さ、柄が丈夫か床に当てて確認しています。念入りに。
「よし、これOK!」と合図。
つづけて店主に値段の確認をしています。手振り身振りで。
無事に購入でき、彼は手を振って去っていきました。
ものすごく心強く感じました。
言葉が話せなくてもこうして健聴者と同じように生活していること、これは大きな驚きでした。
「助けが必要な人たち」ではなく、むしろ進んで他の人を助けてくれる人たちだったのです。
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インドのろう者のどうやって生計を立てているか
インドは福祉制度がまだまだ発展途上のようです。ろう者も生活のために一生懸命働かなければいけません。
そのため、いたるところでろう者を見かけます。
カフェのスタッフ、ファーストフード店やスーパーなどで働いています。彼らは上司や同僚とどうやってコミュニケーションを取っているのでしょうか。
インドに来て気が付いたのは、健聴者であっても手振り身振りで手話もどきが出来る人が多いことです。
おそらくろう者の社会進出が目覚ましいので、自然と周囲の人々もできるようになるのかもしれません。
日本ではサービス業でろう者が働いているのを見たことがないので、とても驚きました。
インドにはMaxと言う衣料品のチェーン店があります。日本で言えば、ちょうどユニクロ的なお店です。
そこでも必ずといっていいほどろう者が働いています。商品を補充したり、衣類を畳んだりして忙しそうです。
確かに耳が聞こえなくても、できることはたくさんあるんだからサービス業でも働ける。
日本でもそうなればいいのになと思いました。
ろう者の給料は健聴者の半分の給料のようです。全ての職種がそうなのかはわかりません。
友人の一人は清掃の仕事をしています。ろう者である彼の給料は一ヶ月日本円で一万円ちょっとです。
インドの物価がいくら安いからとはいえ、月収一万円位だとかなり節約しないとできません。
それでもある日、彼は私たち夫婦をレストランに連れて行ってごちそうしくれました。
そのお店で高めのカレーセットを注文してくれました。カレーと薄焼きナンに、なぜかうまい棒みたいなのがついています。
インドのカレーは基本が辛口、いや激辛に近い。
うちの旦那さんは辛いのを食べると、とたんに大量の汗をかく。サウナに入ったかのように、額から汗をかきながらカレーを食べた。
それを見たレストランの店主は心配そうに見てた。
そして皿に砂糖をのせてもってきてくれた。
その上、薄焼ナンが冷めただろうからと温かいものを持ってきてくれた。
やさしいね。
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インド手話を勉強する
そういうわけで、必然的にインド手話を勉強しなければいけない。
手話は国や地域によって異なります。同じ国の中でも差があるのは、方言があるのと同じです。
日本では手話をすることなど考えたこともなく、興味もありませんでした。人生何が起こるかわからないものです。
インド手話はジェスチャーのようで、とても分かりやすく学びやすい手話だと思います。
ただやはり表情をつけることがとても難しく、日々研究中です。
全身を使っていかに絵を描けるかがポイントです。
そして感情を込めること。
つい手の動きだけで表現してしまいます。手話において顔の表情は文法の一部だと言われています。
あってもなくても良いものではないのです。
手話で話されるお話をきくと、お芝居を見ているかの様でとても感動します。
手話は表現が豊かな、とても素敵な言語です。
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眼からうろこのろう者の世界

彼らがごく普通に自立して生活し、働き日常生活を送っていることがまず驚きでした。
もちろん、大変なことや不便なことたくさんあるはずです。
それでも、私の周囲にいるろう者は皆、助けを必要としている人たちというよりも、進んで助けてくれる愛すべき人達です。
手作りの料理を差し入れしてくれたり、田舎からもらったという小麦粉を大量にわけてくれたりもありました。
他にもたくさん、とてもたくさん日々彼らから、愛と元気とパワーをもらっています。
そして助けてもらっています。
はやく自由に意思を通わせられるように私の手話が上達しますように。
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