中国では子供を自分の親に預けて、大都市に出稼ぎにいく若いカップルがたくさんいます。
そうした子供たちは「留守児童」とよばれており、中国国内でも社会問題となっています。
「留守児童」たちはすでに親の世代となっています。
同じように子供を親に預けて出稼ぎにいくことが、次の世代においても繰り返されます。
そんなこと考えられない!
と思うでしょう。きっと以前は中国でもそうだったはずです。
では実際そうした生活ではどんなことが生じるのでしょうか。
実は私の友人もその中の一人でした。それまで「留守子」問題について聞いたことがある程度でしたが、間近で見る事により様々な問題を知ることができました。
目次
中国では子供を祖父母に預けて出稼ぎにいくのはなぜか
私の友人の恵芳は30代の女性、彼女は夫と共に江西省の大きな町で衣料品店を営んでいました。
従業員も雇うほど繁盛していたので店は忙しく、子供の世話をすることなどできないと考えたのでしょう。一歳ぐらいのときに夫の実家に預けることにしました。
子供たちを会えるのは正月休みか、夏休みくらいです。
こうした背景には恐らく、子育てはみんなでするものと言う考えがあるのではないかと思います。
それは素晴らしいことです。
親にだけ養育義務があると考えられている日本と違います。そのため私の周囲にも親せきの家で育てられた人がいました。
日本ならほとんどの人が子供に手がかからなくなってから働こうと思うでしょう。
しかし彼らは自分たちが若くて元気なときにお金を稼ぎたい。子供はばあちゃんにみてもらえばいい。と考えるようです。
まして自分たちがそのようにして育てられたのですから、自然な選択なのかもしれません。
子供たちがおかれていた環境はひどかった

孫は目に入れてもかわいくないと思うでしょうか?
すべての人がそう思うとは限りません。
恵芳の子供たちの場合もそうでした。彼女の夫の実家に預けて育てられましたが、ろくな食事が与えられなかったと言っています。
現在12歳と9歳の二人の子供たちの話はどこまでほんとうかわかりませんが、白菜の炒め物しか作ってくれなかったと言っています。
お肉を食べられることはほとんどありませんでした。
そのためか、遺伝なのか12歳のお姉ちゃんの方は特に身体が小さくまるで発育不良のようです。
彼らの祖母は気がとても強く、神経質で子供たちはピリピリしながら生活していたと言います。
食事の際は噛む音を立てると、ものすごく怒るので慎重に音を殺すようにして噛んでいたそうです。ちなみに中国のごく普通の家庭において、食事中に絶対に音を立ててはいけないというマナーはたぶんないと思います。
口の中に食べ物が入ってるのに話す人もいるぐらいです。
噛む音がうるさいというのは、「食べるな!」と言っているのと同じです。
暴言の中で二人は育っていました。
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取り戻せない子供との時間
幸いなことに恵芳は子供たちと離れ離れの生活はよくない事に気が付き、引き取って一緒に暮らすことにしました。
江西省に夫を残して実家から一番近い町で子供たちと暮らすことにしました。夫も一緒だったらもっとよかったのですが・・。
大きな決断だったに違いありません。
私と恵芳が出会ったのは、子供たちを引き取るためのアパートを探していたときでした。
無事に手ごろなアパートが見つかり、子供たちにとっては「ついにママと一緒に住める!」
夢のような時がついに来たのです。
ところが
長い間分断されていた間にできた距離はそう簡単に埋まりません。
血がつながっているかどうかに関わりなく、絆は時間や小さな行いによって紡いでいくものです。
特に上のお姉ちゃんは10代に入って思春期が始まったばかり。大人と子供の間です。
無条件で愛されるべき子供たちは、愛の代わりに受けたのは暴言やネグレクトです。
客観的に見れば暴言であっても、彼らにとってはそれが普通、スタンダードになっていました。祖母の行動や人への接し方は子供たちの行動規範を形作っていたのです。
そのためせっかく親子三人暮らしが始まったのに、子供たちは恵芳にきつく、批判的でした。
恵芳は子供たちから想像もしていなかった対応を受け、情けない気持ちでいっぱいです。大粒の涙を流しながら、同じ話を何度もしていました。
しまいには子供たちを引き取ったことを後悔していると言いました。
子供のことを想って三人暮らしをしたのに、子供たちは感謝するどころかイライラしキレまくっています。
とはいえ当然と言えば当然です。子供たちが一番ママを必要とする時にいなかった。

涙ぐましい努力の成果は報われる
溝は大きくて埋めるのには長い長い時間が必要です。恵芳は愚痴を言いながら、あきらめずに失った時間を埋めようとしていました。
「あの子たちはお肉がすきだから、毎食お肉料理作ってるヨ」
と言って、一生懸命三食愛情たっぷりのご飯と作っていました。
思いは徐々の伝わり、すこーしずつですが溝が埋まっていきます。
ある日、恵芳と上のお姉ちゃんがまるで姉妹か友達同士のようにキャッキャッと歩いているのを見かけました。
よかった

グレーゾーンの虐待やネグレクトは気づかれにくい
文字通りの暴力は傷跡が残ります。それが証拠となり、第三者に気づいてもらえるきっかになるかもしれません。ほんとうにそう願います。
言葉の暴力は誰にも気づいてもらえません。録画でもしていれば別ですが。
気づいてもらえたとしても、どうすればよいのでしょうか?夫婦なら離婚という選択肢がありますが、親子や祖父母といった関係内で、被害者が未成年であったならどうしようもありません。
ただ一つ、大人が暴言をやめない限り問題は解決しません。
言葉の暴力よりもさらに気づかれにくいのは、無視や冷淡な態度です。あからさまにひどいことをいうわけでありません。
態度全体が冷たく、愛情を表すことは絶対にありません。
ご飯を与えないなら、ネグレクトと言われるでしょう。しかし時々は作ってくれる、少しだけど作ってくれるという微妙なネグレクトはとてもたくさん生じています。
恵芳の子供たちが祖母から酷い扱いを受けていました。それでも生命維持のために必要なものは受けていましたから、それを虐待と呼ぶことはできません。
しかし、日常的に傷つける言葉で話し、態度や接し方が極めて冷酷であるのは健全な環境ではありません。

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消去しがたい幼少時代の記憶
私も幼いころ、ときおり母方の祖父母の家に預けられることがありました。短期的でしたが。
祖父母はまさに孫がかわいいと思えない人でした。
明らかな暴力はなかったものの、暴言や冷淡な態度、無視は日常茶飯事です。
私は当時の祖母の年齢を超えていますが、当時の彼女の行動を理解することはどの角度から見ても不可能です。
飼い猫が生んだ目の空いていない子猫を平気で海に投げ捨てます。
生むたびに。
鬼そのもの。いや、そう例えるなら鬼に失礼にあたる。
祖母が亡くなった時も全く何の感情がおきなかったのも当然です。
ファンでもない芸能人の訃報を聞くときの方がまだ心が動きます。
祖父母の家では誰かが相手をしてくれることは絶対になかったので、一人で過ごすしかありません。
六畳と四畳半の二部屋しかないアパートの住んでいた私にとって、田舎の家は広く不気味です。
祖父母はサービス業を営んでおり、子連れのお客さんが待ち時間に退屈しないようにおもちゃ箱を店の片隅においていました。
店に人がいないのをみはからって、おもちゃ箱から取り出したお人形で一人で遊んでいました。

あるとき親せきの男性が祖母と世間話をしていました。私がもう少しで大阪に戻ることを知った男性は
「もう返すの?まだ夏休みあるのにもっと置いとけばいいじゃないか」
「それは、困る。迷惑」
そのときの嫌悪感に満ちた祖母の表情を見て、それまでうすうす感じていた
「もしかして私って邪魔者」という疑念が真実であることを確信しました。
祖父母の家にいるときは空虚で、居場所がない寂しい時でした。
ある日お人形で遊んでいたときに、憂鬱な気持ちが大きな怪物にようになって襲ってきました。とても不思議な感覚です。
そんなことをとっくに忘れていたのに、成人してから同じ怪物に襲われるときがありました。
しかもそれは決まって、他人の家に泊まってかばんの中から何かを取り出すときなのです。
脳の中で何が生じているのかはわかりません。それでもきっと以前の経験や感情がフラッシュバックするかのようによみがえるのかもしれません。
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消えない過去のつらい記憶
私のような非常に軽度、グレーゾーンの経験でさえこれほど大きな影響を及ぼします。
まして性的犯罪の被害者や家庭内暴力の被害にあった方なら毎日、毎秒生きていくのが闘いであるに違いありません。
最近ある国で、性的犯罪の被害者を助けるホットラインが開設されました。電話でカウンセリングを受けるというものです。しかもニュースになったのはそれが男性のためのものだったからです。
性的犯罪の被害者には多くの男性が含まれています。女性でもカウンセリングを受けたり、ワークショップに参加するのに勇気がいります。
男性の場合は女性よりももっと勇気がいり、誰にも言わないで心に秘めたままでいるケースが多いそうです。電話をかけるのは勇気のいることです。
そこに80歳の男性が子供のころに受けた被害について涙ながらに話します。
きっと初めて人に話したのかもしれません。
大昔に起きたことはきのうのことのように鮮明なのです。
傷がいえる日はくるのでしょうか。
「ごく普通の生活を送る」
これほど難しいことはありません。
すべての人が悲しみを乗り越えられる日が来ることを願います。
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