インドに来てろう者と交流する前は、彼らは本を読んで100%理解できると思っていました。
目が見えるのだから、読めばわかるはずだと。
ろう者の中には優れた読解力をもつ人はいます。
しかし、大抵の場合ろう者が本を読んで理解することはとても難しい事なのです。
素朴な疑問です。
ろう者が本を読むことが難しいのはなぜでしょうか?
その理由は文章は話し言葉に基づいているからです。
文章は話し言葉に由来する

文章は、人が話している言葉を文字にしたものです。多少の差はあるとはいえ、普段話している言葉が文字になっています。文字はあとからできたものです。
健聴者の場合、本を読んだ時に以前に聞いたことがあるため理解できます。
たとえば「走る」という単語。最初に文字を見て覚えたのではないはずです。
幼いころに
「あの木のところまで走ろうか?よーいドン」
「走ったらだめよ!」
といった「走る」という発音つまり音を聞いて走るという単語を覚えます。
文字と聞いたことが結び付き、読んで理解することができます。
音→意味→文字となるわけです。
一方でろう者の場合は、一度も音を聞いたことがありません。
文字は音声、話されていることを表したものですから、文を読んで理解するのはとても難しいことです。
たとえば、あなたがケチュア語を勉強するとします。
ケチュア語を一度も聞いたことがありません。練習しようにも、CDもなければyoutubeにも動画がありません。
仕方ないので、ケチュア語の文字を見て文法の説明書だけで勉強します。
では、一年間後にケチュア語の本が読んで理解できるようになるでしょうか?
特殊能力がない限り無理です。
言葉は耳で聞いて学ぶからです。

手話は目で見る言語
何か人に話そうとするときに、頭の中で単語を選択して文を組み立てます。
同様にろう者は何かを話そうとするとき、頭の中で手話で考えてまとめて表現します。
インドのろう者の生徒の中には文字を書いてノートを上手に取る人もいますが、絵を描かせた方が効果的です。目で見て情報を得る方が理解が早く記憶に残るからです。
どうしてもイラストで表現できないところやよく知っていることなら英単語も活用します。
さらに、手話は単に言葉をジェスチャーで表したものではありません。日本手話の場合も日本語を手や身振りで表しただけのものではないのです。
独自の言語、外国語です。
では手話はシンプルなことしか伝えられないのでしょうか?
そうではありません。手話には、豊かな表現力がありどんな奥深い考えや抽象的なイメージも表現できます。
ろう者はどうやって子供と話すか
私の周りのろう者の友達のうち何人かは、結婚して子供がいます。子供たちはみな健聴者です。
ではどのようにして、子供と会話するのでしょうか。
手話です。子供に良く話しかけている親の子供たちはそれだけ手話が上手です。
逆に子供がろう者の場合は、親が手話を勉強しないとできるようになりません。でも、子供のために手話を勉強する余裕のある人はあまりいません。
親たちの貧しさや受けた教育が限られていることも関係しています。
ろう者を両親に持つ健聴者の男の子が手話をしている所です。
興味深いのはこの男の子は私たちとは言葉を使って話し、ろう者には手話で話しかけます。使い分けができるのです。
彼はとても人懐っこく、顔を見れば「遊んでーー」とものすごい破壊力で突進してきます。インドの現地語なので何をいっているかわかりませんが。
カナダのモントリオールのマッギル大学で行われた研究によると、ろう者の赤ちゃんは自分の手で、リズミカルなパターンの手の動きをすることがわかりました。
それは手を使った赤ちゃんの言葉だったのです。
手を使って会話をするということを、赤ちゃんなりに理解しやっているのです。
耳の聞こえる両親を持つ幼児が……生後7か月ごろから片言で話し出すのと同様,ろう者の家庭で育つ子どもは,親の主要な意思伝達法をまねて手を使い,声を出さずに意思を伝えようとする
ロンドンのタイムズ紙
手話で広がる未知の世界
手話を覚えることでろう者とコミュニケーションを図ることができます。それは想像以上に興味深く、新鮮で視野が広がります。
外国語を学ぶよりもはるかに短期間で習得できます。
なぜならあの退屈で時間のかかる書き取り練習や読む練習をしなくて良いからです。
インド手話はおもしろいです!
インド手話を見てみましょう。
こちらの記事ではインド手話について書いています。